あっちの世界ゾーン第七十八夜「T陸上自衛隊基地 その一」

奥村紀子(真名)さん談


私の兄克也(仮名)くんは自衛隊員です。

しかも、T陸上自衛隊基地(以後T自衛隊)に所属しています。

T自衛隊は、はっきりいって、地元でも有名な幽霊が出るスポットです。

兄は霊に好かれる体質ですが、まさか、勤務地にまで呼ばれるとは・・・・なかなかですね。


克也くんがT自衛隊に配属されて3年目のことでした。

人間関係にかなり苦労していた克也くんは、妹の私に助けを求めてきました。

ちなみに、その頃は高校3年で、中間試験の真っ最中。

しかも、両親はかなり厳しい人で、兄の仕事場には、私一人ではいかせてくれませんでした。

しかし、そのころの私はかなりいい子だったみたいで、兄のために自腹を切って、

両親に嘘をついてT自衛隊まで行きました。

はっきりいって長旅です。

電車にゆられて3時間、徒歩10分で到着ー。

その間、真面目な私は勉強していました。

T自衛隊につくと、はっきりいって、ぞっとしました。

なんていうか、「あっちの世界」がただよっているのです。

克也くんの話では、T自衛隊という所は、昔は戦争のど真ん中で、かなりの被害が出たそうです。

しかも、T自衛隊のある場所は、今でも死体が埋まっているという話が。

話では聞いていましたが、まわりを歩いている限りでは、そう思いませんでした。

しかし、基地の敷地に一歩足を踏み入れると・・・・・・

外の音が消えました。

びっくりして振り返ると車はちゃんと通っています。

しかし、音がかなり遠くに聞こえるのです。

季節は新緑、鳥でも飛んでいてもおかしくないのに、どこにもそんな気配はありません。

そして、極めつけは、入った途端、さっきまで暑かったのに、急に寒くなったのです。

そこは、すでに「あっちの世界」だったのです。

とりあえず、頼まれた荷物と、克也くんの相談に乗り、彼の上司に挨拶をしました。

その間、誰かが私の体を触っているみたいで、気分のいいものではありません。

T自衛隊を行けるとこまで散策しながら、話をしていると、いわくありげな資料館に出逢いました。

戦争時の物が展示されていて、公開されるのは年に2−3回とか。

「今度来た時にいれてやる」

そういって、克也くんは、そこを離れました。

あまり、いい顔をしていません。

なにかがあるみたいでした。

夕方くらいにT自衛隊を出ると、外の世界の音と温度がやっと感じました。


兄よ、もうそろそろ「こっちの世界」の住人になろう。

さっさと自衛隊なんてやめてしまえー!





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