あっちの世界ゾーン第八十五夜「トラウマ」

命知らずさん談


以前後輩のH君の話しをすると予告していたのですが、長くなるのでやめました。

その代わりにこの話しをお届けします。

かなり昔に聞いた話しで、しかも一回しか聞かせてもらえなかったので

おぼえ違えている所があると思います。

それにあまり怖くないかも。

あ、いえ、そんなことはありません、Yさん。

もし間違っていたら・・・Y先輩、許してくださいね。

とにかく、本編をどうぞ。


今は他県に引っ越してしまいましたが、私の先輩にYさんという方がおられました。

このYさん、陽気できさく、ちょっとヤンキーがはいっていて頼りになる「兄貴」だったのです。

ところがYさんには、兄貴に似つかわしくない弱点がありました。

あっちの話しが全然ダメなのです。

あっちと言ってもシモではありません。

それに関してはYさんは百戦錬磨。

一流の狩人でした(うらやましい)。

あっちというのは、このあっち。

そう、Yさんはあっちの世界の住人に滅法弱い兄貴だったのです。



話しは、Yさんの少年時代にさかのぼります。

Yさんの実家はF県にありました。

人里離れた旧家で、敷地はかなり広い。

買い物に行くのにも車で行かねばならないほどの山中にあったそうです(お邪魔したことはありませんが)。

敷地内にはいくつかの建物があり、それぞれが長い渡り廊下でつながっていました。

ところが何を考えて作ったのか、この渡り廊下、明かりが一つもありません。

夜になるともう真っ暗で、ただでさえ怖い廊下がさらに不気味な雰囲気をかもし出すのです。

ある日、Yさんは留守番をおおせ遣いました。

広い家に一人っきり。

しかしYさんは別段寂しがることもなく、一人の自由を満喫していました。

母屋での遊びに退屈したYさんは、渡り廊下を通って倉庫に向かいました。

倉庫にはたくさんの漫画が置いてあります。Yさんはその漫画を読み始め・・・

やがて眠ってしまいました。

かなりの時間眠っていたのでしょう。目を覚ました時はもう夜でした。

倉庫の中は薄明かりしかなく、怖い。

しかし母屋に帰るには、明かりのない渡り廊下を渡るしかない。

Yさんは怖さをこらえて渡り廊下に一歩を踏み出しました。

ギシ・・・ギシ・・・

歩くたびに床がきしみます。しかしそれでもYさんは渡り廊下の中ほど、

中間あたりの曲がり角までやってきました。

そこでYさんは不思議なことに気がつきました。

曲がり角の向こうが光っている。

ぼうっ、という感じで、なんとなく明るく見えるのです。

両親達が帰ってきて、母屋に電気がついたからなのか?Yさんは曲がり角から顔を出しました。

角の向こうには二つの人影がありました。

鎧を着た武士らしき男と、その足元に座り込んでいる和服を着た男。

見てはいけない。

Yさんはそう思いました。

なぜ、なんのためかは分かりません。

しかし、目を逸らすことができず、光の中の二人の様子はYさんにはっきりと見て取れました。

武士は刀を持ってました。

それを振り上げると、Yさんの見ている前で振り下ろしたのです。

廊下の壁に血が飛び散り、座っていた男は前のめりに倒れました。

武士は後ろをむいたままです。

息を呑むYさんの前で、それが振り返りました。

逃げようとしましたが足が動かない。

武士はYさんに近づき、左手に握っていたものをYさんの眼前に突きつけました。

切り落としたばかりの、血にまみれた男の生首。

ニヤリ。

それが笑うのを見て、Yさんは気を失いました。

気を失ったわいさんは何事もなく無事目を覚まし・・・そして現在に至るのです。


この武士達が何者なのか、どうしてYさんの前に現れたかは、結局分からないそうです。

ただ旧家なので、出てもおかしくはないだろう、ということでした。

このトラウマのせいで、Yさんはまったくそのての話しが駄目になってしまったのです。

冗談だと思って無理矢理話しを聞かせようとしたら、殴られた(^^)。

自分も怖い思いをしていないからこういう話しができるんであって・・・

体験しつつも笑って話しができる皆さんはすごいと思います。

本当に。





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