あっちの世界ゾーン第八十六夜「侍の陰」

奥村紀子(真名)さん談


夕日が綺麗な日の次の日は雨になるそうです。

本当か?

でも、確かにそういうことが多かったとおもいます。

夏の終わり頃なんて、それがぴったりあてはまったりするんですよ。

私は、夕日を見ていると気分が悪くなる方なので、あんまし見ないようにしています。

たぶん、あれを見たからだと思います。


中学三年の時でした。

高校受験に無縁な私立にいったので、私はかなり遊んでいました。

宿題も少なく、天国みたいな中学でした。

夏休みの終わり頃でした。

宿題も一通り終わらせているので、それほど慌てていませんでした。

逆に暇でした。

あまりに暇だったため、私は、台所から玄関を通して、夕日の光を眺めていました。

ほとんど眠っている状態だったと思います。

突然、セミの声が聞こえなくなってしまいました。

だから、眠っているのか、と思いました。

そしたら、一人の侍が刀を振って玄関を通り過ぎていったのです。

ゆっくりと、まるで練習でもしているみたいでした。

だから、なにも疑問に思わなかったのだけど、姿が見えなくあったら、急に寒気がしました。

なにか来る!

そう感じて警戒するのと同時に、パシーンと空間が割れるような音がしました。

そして、セミの声が聞こえるのです。

私はすぐに玄関に行きました。

しかし、誰もいませんでした。


我が家が建っている場所は、昔川だったそうです。

合戦があったりして、かなりの数の死人が出たとか。

けど、なんのために侍は私の前に出てきたのだろう。

なに一つ霊障がなかったのが不思議です。

おわり





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