あっちの世界ゾーン第九十六夜「お経の効果」

Kuzoさん談


これからする話はあまり人にはなした事はありません.

同じような経験をした事のない人だったら、信じてもらう事はおろか、

あいつはへんなやつとしかおもわれないからです.

今回、懸賞目当てに投稿してみる事にしました.

創作したものではありませんので面白おかしくはないとおもいます.

何年も前に私の身に起こった事をなんの脚色もしないでそのままおはなししたいとおもいます.


当時、高校生だった私は突然ある日を境に毎晩金縛りにあうようになりました.

夜中に目がさめると、すごい恐怖感におそわれます.

頭ははっきりと覚醒していますが、体はうごかないし、声も出ません.

何とか声が出たとおもっても自分の声とは思えない変な声が出るだけです .

体をぎしぎしとなにかで締め付けられているような感じです.

無理に動こうとしてもだめなので、指先からすこしづつ動かしていき、

金縛りが弱まった時に一気に力をいれて手や足を動かします.

これを何回か繰り返して少しづつ大きく動くようにしていくと、金縛りを解く事ができます.

計った事はありませんがこんな状態を脱出するのに5分〜10分かかったのではないのでしょうか.

こんな事が毎晩つづくようになりました.


そして、最初の頃は一晩に一回でしたが、だんだん回数が増え1晩に何回もかかるようになりました.

かかりかたもきつくなってきました.

1晩に何回もかかるようになると寝るのが恐くなってきて、寝不足ぎみになってしまい、

昼間の生活にも支障をきたすようになってきました.


だれにも相談できず、こんな状況からどうやって抜け出そうかとひとりで考えていました.

休みの日の昼間、居間のソファーで少しうとうとしただけでかかってしまいます.

すぐそばに家族がいてもかかってしまいます.


夜、のどが乾いて台所へ水を飲みにいくときの事です

狭い家なので10歩もあるけば台所まではたどりつきますが、家の中なのに、

なんだかすごく恐くて背筋がゾーっとします.

暗がりをあるきながら台所の横の居間と風呂場の蛍光燈のスイッチを廊下でonします.

台所にも蛍光燈が2つあり、両方ともonします.

これだけの照明全部がいくら待ってもつかないのです一旦点灯しても消えてしまいます

寿命で切れかかっているかのように両端がぼんやり明るくなるだけで、

そのままいくら待っていても点灯しません.

仕方なく手探りでコップに水道の水をそそいで飲んで部屋に戻ります.

毎晩こんなかんじでした.

あまり不思議なので昼間蛍光燈のテストをしても異常はありません.



ある日の深夜、いつものように金縛りで目が覚めました.

その日、前に何かで読んで知っていたこんな事をふと思い出しました.

“金縛りにあった時には、霊体が近くにいるので目を開けてはいけない”という事です.

いままで怖さの為、目を開けた事がなかったのですが、

その時はそれが本当かどうか確かめてみようと思ったのです.

うつぶせで金縛り状態の私は、おそるおそる目を開けてみました.

目をあけるくらいは出来るのです.

ベットの横の方しか見えませんが特に変わったものは見当たりません

「もしいるんだったら背面、天井側か」と思い

さらに、金縛りが弱くなるのを見計らって首をにひねって天井の方を振り返りました.


私の足元のほうの天井の隅で、うずくまるような格好をして男が空中に浮かんでいました.

黒っぽいスラックスに白いカッターシャツを着ています、顔ははっきり見えませんが、

黙ってこっちをじっと見ているような感じです.


「いた」ほんとに見えてしまったのです.

「金縛りの原因はあいつだ」


見えてしまうと不思議な事にこわいというよりも

ここ何週間か睡眠を邪魔されたといううらみが徐々にこみあげてきたのです.


私のなかで普段めったに使う事のない「怒りの回路」のスイッチがカチッと音を立ててONしました.

今風にいえば「きれた」のです.

きれて気持ち的には戦闘態勢に入った私に恐怖心はまったくなくなりました.

当時は、気力、体力とも充実していたので本気でやれば

相手がやくざだろうとなんだろうと一対一なら勝たないにしても負ける事はありません.

ただ、相手が生身の人間の場合ですが.

「絶対にやっつけてやる」

と思っても空中に浮いているあいつはどう考えてもすでに死んでいるので

これ以上やっつける事はできないのです.


なにをどうすればあいつに致命的な打撃を与える事ができるのかよくわかりません.


とにかく何かその辺にある物をぶつける事に決めた私は、

金縛りを一気に解いてから攻撃にうつる為に、もぞもぞと体制を替えはじめました.


そんな私に気が付いたのか、そいつが天井からうつぶせの私の背中に

ぴょんととびおりてくるのが視界の隅にはいりました.

全身に力を込めて落下にそなえましたが、あの高さから背中に落ちたにもかかわらず

重さはまったく感じませんでした.

「こいつ体重がないんだ」いまも背中にのっているはずなのに重くありません.

急に金縛りがきつくなりそいつの両手が首にまわったのがわかりました.

「物理的には質量ゼロのこいつに首を絞める力が出せるわけがない.

もし首が絞まってきたらそれは私の幻覚なのだ.しめられるもんならしめてみろ」

と思いそのまま首を絞めさせておきました.

すると、どうした事かだんだんに首がしまってきて苦しくなってきました.

「まずいほんとにやられるかもしれない」

こうなるともうやっつけるとかいってる場合じゃなくなってしまい、いつものようにして

金縛りをはずす事に全力を集中する事にしました.

しばらくしてもがいてなんとかベットから落ちるようにして起き上がり

照明をつけるとそいつはいなくなっていました.

いなくなってからが、ものすごく怖くなってきてしまい大変でした.

こんな状態でとても寝られたものではないので両親の部屋に行って寝ました.

翌日、家族にはなしをしましたが誰も信じてくれませんでした.

それからは、しばらく両親と同じ部屋で寝ていたように思います.



実は、金縛りにかかるようになるちょっと前に

家のすぐ横で交通事故がありましてなくなった方がいました.

私の家の敷地の隅にたっている電信柱に衝突して即死したのです.

深夜2時頃、寝ているとすごい音がして目がさめました.

そのうちに家の外が人の声でにぎやかくなってきて交通事故だと思いましたが

わざわざ見物にいくよりも寝ていたほうがよかったので私はそのまま寝てしまいました.

この時の様子は、翌朝父に聞きました.


もの音で目が覚めた父が外にでると大破した車が家の前の家具屋の駐車場にあったそうです.

衝突したとみられる電信柱から20m〜30mはなれた位置だったそうですから

相当なスピードで激突して飛ばされたものと思われます.

ただドライバーが見つからなかったので近所の人といっしょにさがしていると

そのうちにパトカーがきて救急車もきました.

みんなで探して、やっと見つけたのは大破した車の下だったそうです.

激突した衝撃で運転手は車外に放り出され、その上に車が運転手を隠すように

着地したのだろうというのがおおかたの意見でした.

車の下の運転手は首の骨が折れているようで多分即死だっただろうという事でした.


警察官がなかなか手を出さないので、父が車の下からひきずり出したそうですが

その時みた顔が目に焼き付いてしまったそうで、その日一日食事がのどを通らなかったそうです.

私の部屋に出てきたのはまず間違いなくこの人だと思います.


夜首を絞められてから2日後の事です.

学校を終えて家にかえってきました.

夕焼けで空がきれいに赤くそまっていて、風もなくしずかな夕暮れ時でした.

10人以上のお坊さんが私の家をとりかこんでお経の大合唱をしていました.

異様な光景でした.

あたりいったいにお経が響きわたっています.


人数が多いので圧倒的な迫力で、その声の振動がはらわたに染み来んでくるような感じです.

家にはいってお経をききながら家族で夕食をたべました.

別に私の家に、お経をあげているわけではなくて、事故現場のお払いだったようです.


誰がお坊さんを頼んだのかわかりません、多分なくなった方の遺族ではないかと思います.

何の関係もない私のところにあれだけはっきりと姿をみせたのですから、

当然遺族のところにも出ていたのでないかとおもいます.

そしてこの日を境に私の金縛りはおわりました.



死亡事故の後で家の前で4回事故がおこりました.

最初の2回は道からみて私の家のある側につっこみました.

その後お経をあげて1週間しない間にまた2回交通事故が起こりました.

お経をあげた後の2回は道の反対側の家に突っ込みました.

事故といっても死亡事故ではなく軽い事故です.


その後、事故は起こらなくなりました.

これは、2週間位の間の出来事ですから、10年以上事故のなかった事を考えると、

あきらかに最初の死亡事故でなくなった人が運転の妨害をしていたのだと思っています.





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