あっちの世界ゾ〜ン第弐十壱夜「霧の中のナビゲーター」

バビビボさん談


この話は、派遣社員をしている女友達が某テレビ局で働いていた時に

そこの社員の山本さん(仮名)の体験を聞いた話です。


秋も深まった10月。

山本さんは、つき合ってから3カ月になる彼女と休みの日に箱根にドライブに出掛けた。

芦ノ湖や箱根の森美術館などを見て回った二人は天気も悪くなったせいもあり、

夕方薄暗くなってきた山道を家路に向かって車を走らせたのであった。

しばらく走っていると案の定山の中は霧が出てきて視界がかなり悪くなってしまった。

山本さんはヘッドライトとフォグランプをつけ安全運転に注意しながら車を走らせていました。

ふと助手席に座っている彼女の方を見ると疲れていたのか眠ってしまったようでした。

更に霧も濃くなり山道もカーブが多くなってきた時、

「右にカーブ」

と彼女が言い出しました。

エッ!?と助手席の方を見ると、いつのまにか彼女が起きていて正面を見ていたのです。

そしてすぐに走っている道は右にカーブしていきました。

一瞬、目がいいのかな?と思ったのですが、

彼女が言ってからカーブに差し掛かるまで300メートル以上はあったはずです。

この霧の中いくらなんでも視界は30メートルがやっとのはずと彼が思った時、

「左にカーブ」とまた彼女が言いました。

本当に道は左にカーブしていきました。その時、山本さんにはある考えが浮かんでいました。

きっと彼女は、最近この場所に来たことがあって何となく道を覚えていたんだと。

またしばらく走っていると

「左にカーブ」と彼女の声。

左カーブを走りながら「いや〜、知ってて助かるよ。こんな霧じゃ本当に危ないからねぇ。

このままナビゲーターよろしく」と彼は彼女に言ったのです。

この時、彼女は返事をしなかったのですが彼は気にもしませんでした。

そんな霧の中のナビが10分位続いた時、「まっすぐ」と彼女が言った。

彼はここからしばらく直線道だなとアクセルを少し強く踏んだ。

すると、「まっすぐ」と繰り返して彼女が言うのです。

そこでふと山本さんは思い出しました。

ここまでの彼女の道案内でまっすぐの指示は一度も無かったことを…。

キキーーーーーーーーーイ!!!

慌てて急ブレーキを踏む山本さん。

シートベルトのおかげで二人ともフロントガラスに頭をぶつけることもなく車は止まりました。

山本さんが大きく深呼吸して前方を見ると目の前は崖になっていて道が無いのです。

しかもそこだけガードレールが無くなっていて工事用のサクが並べられているだけでした。

ビックリした山本さんは、彼女に「冗談にも程があるぞ!

危うく崖から落ちる所だったじゃないか!」と怒鳴りました。

すると彼女が彼の方を向いて

「ちきしょう……」と聞いたこともない男の声でつぶやいたのです。

そして彼女は気絶してしまいました。山本さんは慌てて車外に飛び出すと、

工事用のサクの所に真新しい花束と果物そしてお線香が置いてありました。


後日、彼女はその時の記憶は一切無かったとのことです。

そしてそれ以来おかしな事も。







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