辛あっちの世界ゾ〜ン・第五十七夜「箪笥の中」
NYXさん談
| これはわたしが中学生のときに同じクラスだった同級生Aから聞いた話である。 しかしこの同級生の経験談ではない。 彼女の小学生のころの同級生B。 つまりわたしとは何の面識もない少女の話である。 本当かどうかは今となっては解らない。 しかしわたしはAから話の中心となるアパートを教えてもらった。 そこは時々通りかかる道にあったので、 話を聴いてからはそこをなるべく視界に入れないようにしていたものである。 Bは小さなころ引っ越してきたらしいが、 どうも怪奇現象が多い家にあたってしまったらしい。 知らない女が家をうろうろするのが普通になってしまった。 Bが夜目覚めると、隣に寝ている母親の首を、 その見知らぬ女が締めつけていたときにはさすがに大事であったが。 しかし何よりおかしいのはBの弟のことである。 生まれて三年経つというのに、成長の兆しが見えない。 三歳とは思えない大きさだったと言う。まるでまだ赤ん坊である。 ハイハイさえもしようとしない。 病院に行っても埒があかなかったと言う。 知らない女がいることは、我慢すればよかったのだが、 弟が成長しないのはどうしても原因を突き止めたい。 そして頼ったもの。霊能者である。 電話で霊障(と思われるもの)を聞いて、すぐにやってきた。 彼女はそのアパートの二階の隅の部屋を見ただけでなぜか言葉を失っていたと言う。 その部屋はもちろんBの住む部屋である。 部屋のドアを開けると、その霊能者はまず蝋燭に火をつけた。 それを持ったまま部屋の中を歩き回る。 幾度も、幾度も。無言のままで。 ある地点で、彼女はやっと口を開いた。 「ここだけ揺れる。」 見ると蝋燭の火が揺れている。 蝋燭だから火が揺れるのは当たり前だ、と皆が思った。 風が入ってきているのでは、と。 しかし彼女が少し蝋燭の位置をずらすと、 先程より火の揺れはかなり穏やかだ。 風が止んだのだ、と皆が思おうとしていた。 元の位置に戻す。 ヒステリックに火は揺れる。 変だ。皆が思った。 試しに他の場所をしばらく廻って、元の位置に戻る。 やはりその位置に立つと、蝋燭の火はとたんに強風にあおられたようになる。 そこには何が。 箪笥。 古ぼけた箪笥がある。 霊能者は「これは何だ」と聞く。 Bの父親は答える。 「そう言えば引っ越してきたときからあるので、そのまま使っている。」 早速一家は中の物を全て出した。 しかし何もない。 引出しを出してみた。 全部出してみると、一番底部のデッドゾーンに、何かがある。 人形。 雛祭りのお内裏様である。 沈黙。 手にとって見てみると、何か違和感がある。 雛祭りのお内裏様なのに、なぜ白と黒の縦縞の帯をしているのだろう。 まるで葬式ではないか。 人形の裏を見ると決定的なものがあった。 五寸釘。 まるで後ろから帯を留めるように無造作に打ち付けてあったが、 そのときの不気味さは言うまでもない。 憎悪の塊がここにある。 皆がそう感じた。 やはり自殺した女がここに住んでいたらしい。 失恋が原因だそうだ。 男を憎んでそんなものを作ったのだという結論に達した。 そのお内裏様は霊能者が持ちかえり、供養したという。 その一家はすぐに引っ越したが、その女はそこの自縛霊というわけでは なかったらしく、引っ越した先にまでついて来ようとするようだ。 一家は全員霊能者からもらったペンダントを肌身離さず身につけ、 父親は毎日会社から帰ると家の前で清めの儀式をしてから家に入るという。 Aは小学校を卒業するまで、彼女の話を聞いていたが、 それからのことは解らないと語ってくれた。 |
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