沁あっちの世界ゾ〜ン・第九十弐夜「きつねつきのこと」
I.K.Aさん談
狐憑きって、ヒステリーの一種みたいなものだとも聞いたことがあります。 母は狐憑きと言われる人を見たことがあるそうです。 母が子供の頃、近所に「狐憑き」が出た家がありました。 40年近く前の話ですが、霊的な作用とも精神的なものとも、 母の記憶では当時のその辺り一帯での認識は曖昧だったそうで、 ただごく普通に「狐憑きが出た」と言われていたそうです。 その家の「狐憑き」の女性は、たまに家から逃げ出してしまい、 その日も家の方々が 見当らないので探して欲しい と母の家に伝えに来ました。 その時、ちょうど母の家の敷地内に逃げた女性が現れました。 大人たちは追って外へ出ます。 母も家に残るのが怖くてついていきました。 女性はヒョッ・ヒョッという感じの跳ねるような奇妙なしぐさで通り門の方へ 逃げたかと思うと、彼女を探して母の家へ向かって来た別の一手にすぐ行く手を阻まれ、 通り門の手前に置いてあった五右衛門風呂にピョンと飛び乗りました。 幅が3cmもない五右衛門風呂の縁に乗って振り返り、 左右の足のつま先でしゃがんで甲高い音で喚いたり笑ったりしている女性の目と口元は、 キツネと云われるイメージどおりにギッと釣り上がっていたそうです。 五右衛門風呂は未だに放置されたままなので私も見慣れていますが、 一歩二歩の軽い助走で飛び乗れるならたいしたスプリンターです。 振り返って爪先立ちで姿勢を保つとなれば、バランス感覚も要するでしょう。 狐憑きの正体は不明ですが、精神は肉体をも凌駕するって本当だなぁと思いました。 |
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