あっちの世界ゾ〜ン第四十四夜「鮎釣」

滝川真琴さん談


どうも、こんにちは。滝川です。今日も暇なので、またお付き合いください。

みなさん、イワナという魚ごぞんじでしょうか。

僕は下手のなんとかというやつで、釣りをやるんですが、

鮎釣りがメインの僕は、すっかりやる気を無くす時期で、

暇つぶしに川に出かけては雑魚釣ってます。

説明し忘れましたが、鮎釣りは解禁期間が決まっており、川によっても

変わりますが、だいたい六月初頭頃から八月末までなんです。

一番、おいしい時はやはり七月の初めから中頃の奴で、

それをカマドでじっくり一時間以上あぶってがぶりと食べるのが最高です。

今年は最悪の年でしたが・・・。

ぜんぜん、釣れないんで仕掛けを食べたくらいです。


えっと、すみません、話がそれました。

それでイワナという魚は、たいへんデリケートな魚で釣る為には物凄く気を使います。

どういう事かというと、川に釣り人が三人もいたら、まず駄目です。

奴等は人の気配を察するともうその日は隠れてしまって顔も出しません。

つまり、ひとつの沢に一人。これがイワナ釣りの鉄則(だと思うよ)。

イワナ釣りをするときには、他の人よりも早く川にいき

辺りに人がいなければ釣りを始め先客がいたら、もう諦めるだけです。

まあ、まったく釣れない訳じゃないですけどね。

そんな理由から、僕は無駄足を踏まないために

イワナ釣りをする時にはある事をしていました。

それは、沢に入っていく道の入り口に細い釣り糸を張っておき、

次の日その糸が切れていたら、僕より先に人が入ったと分かるわけです。


当然、その日も糸が切れていない事を確認して獣道をかき分け、沢に向かいました。

川に着き、早速釣り始めしばらくは夢中になっていました。

しかし、一息いれようと持ってきたソーセージを食べ始めた時にそれは起きました。

僕はこの時、川べりに座って川の方を向いて食べていたのですが、

突然、沢の上の方から人が騒いでいるような馬鹿でかい声が聞こえてきました。

僕は、

「おいおい、ふざけるなよ」

という思いと同時に

「あれ、上の方に人がいるのかな・・・」

と妙だなという考えが浮かびました。

イワナがいる沢というのは、ひと気のないかなり奥に入った場所なんです。

ですから、道と呼べるものは僕が糸を張ったあの道しかないはず。

でも、糸は確かに切れてはいませんでした。

それで、やめとけばよかったのに、ちょっと様子を見に行くことにしました。

しかし、いくら登ってもヒット子一人見当たりません。

すでにこのとき「・・・まさか・・・」とは思ったんですけどね・・・。

しばらく進んで、これ以上は進めない所まで着いてしまい、

困惑しながらも今きた道を引き返そうとしましたその時。


「・・・ふふふふ・・・」


小さく笑う声が僕のすぐ後ろでします。

子どもの声です。

「・・・やばい」

この頃にはそこそこの体験をしていましたから、この「あっちからのアピール」が

なんとも言えませんが、やばいものであるのが、なんとなく分かりました。

僕はこういう時はとにかく「そこから逃げる」という方法を今までもとっていましたから、

「絶対に振り向くか!」

と気合を入れると、一目散に川を駆け下り始めました。

ところが、そんな事はその時初めてだったんですが、

「ふふふ・・・」

その声がどんなに走ってもすぐ後ろでするんです!

僕は恐怖で全身鳥肌になりながら、それでもがむしゃらに沢の下の方へ走りました。

さっきまで、僕が釣りをしていた場所まできたとき、

僕はなにかにつまずき派手にすっ転んでしまいました。

膝がひどく傷つき、血が出ています。

その痛みのせいだったのか、その時ひどく怒りが沸いてきました。

「くそっ、ふざけるなよ」

と思いさっきまでの考えをすっかり忘れて、怒りにまかせて

笑い声の方に振り向いて、


「ふざけるな!!」


と怒鳴りつけました。

馬鹿でした。振り向かなきゃ良かった。

僕の二三メートルと離れていない、薄暗いすぐそこの籔の脇に、

ほほ骨のあたりから下の無い裸の女の人と子どもがいたんです。

それも手とか足が潰れたような感じの傷だらけの姿で。

その上、普通にすたすたと、どんどん近づいてくるんです。

僕は当然「逃げなきゃ」と思って、とにかく立ち上がろうとしました。

「うわ、金縛りだー!」

そうです。どんなに頑張っても体がろくに動きません。

あっというまに、子供の方が僕の目の前に来るとピッタと立ち止まって

僕の方を見てきます。

そして、


「ここに・・・・」


よく聞こえませんでした。

なぜならその子供がなにか言うのと同時に、

突然、パっと霧みたいに白いモヤみたいなモノになったかと思うと、

僕のお腹の辺りに吸い込まれるみたいに消えてしまったんですから。

しばらく何が起こったか分からずにボーっとしていたんですが、

あっと思って気がつくとあの顔の潰れた女の人も消えていました。

もちろん、すぐにそこからダッシュで逃げました。

あの子供の言葉の続きを考えると、なんとなく気持ち悪いんですが、

もう、二年以上たちましたが、これといってなんにもないですね。

この話は僕が体験した中ではかなり恐い方だとおもうんですけど、

どうでしたでしょうか。

また、長文ですみませんでした。

また暇なときにでも書きますのでよろしくお願いします。





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