あっちの世界ゾ〜ン第六十弐夜「首」

中年Aさん談


私はインターネットよちよち歩きのうらぶれた中年男ですが、

お気に入りのおもちゃと遊ぶ子供の気分で、毎日パソコンを前にしています。

しかもついに見つけました。こんなHPがあるとは。

何を隠そう、昔から怖い話大好きです。

実は、自分に「百物語」を課し、それを持ってそのうちHP開こうと決心しています。

(とにかく、まずパソコンの勉強を…)

それまで、また投稿させてもらいますので、よろしく。


私の友達夫婦はたまたま、一年ほど前に例のS県の事件で

マスコミをにぎわしたA子さんと同じマンションに住んでいました。

これは彼らから、先日電話で聞いた話です。

A子さんは、たいへん近所付き合いのいい女性でした。

顔を合わせる住人のひとりひとりに、いつも愛想いい笑顔と挨拶を返してくれたといいます。

写真で見てもあれほどの美人です。

その夜、突然ドアの外に立っていたA子さんと初めて言葉を交わしたときは、

友達はかなりどきどきしたといっていました。

彼女はその月の当番で、マンションの住人自治会の会費を徴収しに来たのでした。

別にドアの隙間からのやり取りで十分済む要件ではありますが、

友人は彼女をドアの中に招き入れ、2,3の言葉を交わすことに成功しました。

遠目で見た印象どおりのすがすがしい美人で、

彼女の帰った後にはさわやかな風の香りが残ったといいます。

ところが、そのときすでに奇妙なことがありました。 

振り返ってみると、友人の後ろで彼のズボンをつかんで立っていた

5歳の次男の顔色がとても青ざめていて、今にも泣き出しそうなふうなのです。

「どうしたの」と聞いても、首を横に振るばかりで、何も答えません。

その時は、それ以上何も考えることはありませんでしたが、

それから数日して例の事件が起こりました。

A子さんが、バラバラ殺人事件の被害者になったのです。

報道によると、彼女は思いのほか発展的な女性で、犯人の男性の側にとっては

恋愛関係のもつれによって、やむにやまれぬ思いで犯した凶行だったといいます。

もちろん、そのニュースをテレビで見て、

友達夫婦は食事中、茶碗を落とすほど驚きました。

しかしすぐに、友人の奥さんにはそのことについて別の疑問が頭を過ったのです。

彼女は次男を呼んで問いただしました。

実は、先の話から数日の間に、彼女たちは何度もA子さんと顔を合わせているのです。

そのたびに、その次男は、今にも泣きそうな顔を伏せて、ただ震えていたというのです。

「どうして? あのお姉さんに何かあったの。」

すると、その子はA子さんのことについて、やっと口を開きました。

「だって、怖いよ。あのお姉さん、首がなかったんだもの…。」


A子さんのバラバラになった首が、いつ何処で発見されたのか、

そのニュースを私はついに見落としてしまいました。

それにしても、日常の中で首のない人間を見かけることなど、事実あるのでしょうか。

私は大人にはない子供のただならぬ感性に、より不気味な何かを感じてしまうのです。





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