あっちの世界ゾ〜ン第七十八夜「血だらけの少年が現れたパーティの夜」

中年少年Aさん談


僕が、まだ前髪を垂らした、紅顔の美少年だった頃の話です。     

もてもてだった僕は、女の子が集まって開いたクリスマスパーティに、

男の子ではただひとりだけ招待されました。

その頃の小学生は、十人中三人は青洟をたらし(今の子供はみんなきれいだのう)、

八人は巨人の大ファンで、そして十人中十人が、ケーキが大好物だったのです。

もちろん、年齢からしても、よこしまな考えなど爪の先ほども浮かびようがなく、

僕はただただ、ケーキが食べられるということにつられて、そのパーティに参加したのでした。

さて、部屋を暗くして、テーブルの上の何箇所かにろうそくを灯すという

それなりの演出の中、パーティは進行していきました。

「さあ、いっぱい食べて、楽しんでね。」

大人たちは後を子供に任せて、部屋を出ていきます。

女の子達が歌っている間に、ショートケーキが配られ、僕は待ちきれないで早速それを口にしました。

というか、底に包むように敷いてあるアルミホイルみたいなやつをまず舐めます。

生クリームがべったりついていて、そのまま捨てるのはもったいないからです。

するとその時、正面に座っていた女の子が、僕のほうを見て、奇妙な声をだしました。

「しまった、行儀わるかったかな。」

と、思うのもつかの間、回りの女の子達全員が、

「きゃーっ」と、絹を裂くような悲鳴(私語に近い表現か)。

次ぎの瞬間には、わっと逃げ出しました。

その慌てふためきようといったら、ひっくり返ってパンツ丸見えの子もいたぐらいです。

何が彼女達にそれほどの恐怖を与えたのか。

「ええっ、どうしたの。ひょっとして、僕の後ろに…。」

と、考える間もありません。

僕もつられてその場を逃げました。

ろうそくの薄暗い部屋から、ぱっと明るい廊下へ飛び出します。

ところが、女の子達はさらに悲鳴を上げながら、なお逃げていくのです。

まるで、僕そのものがお化けであるかのように。

ふと、手のひらを見ました。

べっとりと赤い血が…。

「ええっ、なんじゃこりゃ。」

その時初めて、あごを伝って生暖かいものが流れているのに気づきました。

その血量たるや、ただ事ではありません。

たちまちのうちに、胸のあたりが真っ赤に染まりました。

何と、アルミを舐めたとき、その端のところでスパッと舌を切ったのです。

まるで、カミソリを舐めたようでした。

しかも痛くないから、ばつが悪くなって、思わず照れ笑いしてしまいました。

その行為が、女の子達の恐怖感に追い討ちをかけてしまったのです。

血だらけでにやりと笑う、その凄惨さは、まるで怪奇映画のようにおぞましい場面でしょう。

僕だって、裸の広末涼子が鼻血を流しながら、にっこりと笑っていたら、

「ぎゃー」と叫んで逃げ出してしまうに違いありません。


聖夜、近所中に救急車のサイレンが鳴り響きました。

実はその夜を境に今まで、女の子にもてた経験がありません。





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