あっちの世界ゾ〜ン第八十六夜「顔が空中でぐるぐる回る話」

中年少年Aさん談


人の顔が空中でぐるぐる回ることについて、同じようなことを聞いた。

僕の学生時代の後輩で、へんなものにとり憑かれた男の話である。

とり憑かれたのは彼が小学生のころだった。

そのころ突然だが、般若を見るようになったという。

街角でちらちらっと見かけるようになったと思ったら、

だんだん頻繁に出てくるようになった。

母親の買い物についていくとレジの中にいたり、トイレへ入ると先に入っていたりする。

そのうち、寝転んで天井を見上げると、

般若の面が無数にぐるぐる回っているのが見えるようになった。

般若が日常どこまでも追いかけてくるのである。

両親も物狂いのようにおびえる子供が不安になって、

ついに霊媒師やら、坊主やら呼んで御払いをしてもらうことにした。

聞くと、きつねにとり憑かれているという。

きつねにとり憑かれてなぜ般若が出てくるのか、よく分からない。が、

御払いは成功し、僕が話を聞いた時までの十数年間は、

彼は一般的な生活を送っているようだった。

今にして思うと、なんか変な男だった。

目がいつもどことなくあらぬ方を見ていたが、無意識に般若を探していたのか。

現在は音信不通だが、どこかで教員をしているはずだ。

不思議な話だが、それが「般若といわれるもの」であるとわかったのは、

ずっと後になって、からのことらしい。

いまもそのまま、般若が彼のところに現れていなければいいのだが…。





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