あっちの世界ゾ〜ン第九十五夜「黒い影に首を締められる話」

のぼたんさん談


私の妻も同じような経験をしている。

前にも話題に出てきたH公園の近く、

とあるホテルに泊まった妻は、そこで黒い影に襲われたのである。

真夜中のこと、妙な雰囲気の中で目が覚めた。

突然、ベッドの足元に黒い影が見えたと思ったら、

それがあっという間に喉元までせりあがってきた。

そして、その何者かが両手をぐっと突き伸ばして、

首を絞めてきたというのである。

声も出ない。

そのまま気がつくと、朝だったというから、相手は生身の人間ではない。

ただ、恐い思いをしただけで実害もないから、

「それ、夢だろう。」と聞いたが、はっきりと違うという。

顔は見えないが、女、しかも憎悪のかたまりのようなものだったらしい。

もっとも初めてその話を聞いた時は、鼻先で笑っていた。

ところが数日して、聞くこともなく聞いていたラジオで、

H市のホテルで足元からせりあがってくる幽霊のことを言っていたのである。

スチワーデスの間でよく話題になっているらしく、

彼女らはH市で一泊する際に頻繁に被害にあっているらしいのだ。

その体験談は妻に聞いたのとまったく同じであった。

聞いてみると、H市やK市等、その町の歴史にも関係しているのか、

幽霊の出やすい土地柄だそうだ。

ところで、幽霊は脳の錯覚であるという意見も多いが、

このように複数の者が同じものを見る場合はどう解釈すべきであろうか。

遠藤周作もそのエッセイで、幽霊に首を締められる人と、

それを隣で寝ていて目撃している人の話を書いている。

二人が、偶然同じ夢をみたのでないとすると、やはり不思議な話である。

逆に、脳の錯覚で片付けられるとすると、幽霊を見る人は、

主観の基礎が信用できないということになって、

極論すれば、世の中全部が疑わしくも思えてくるだろう。

たとえば、隣にいる友人はなぜ幽霊でないといえるのか。

その疑問に答えられないとすると、まず、幽霊を見るには脳に欠陥があるのか、

それとも錯覚をみる理由があるのか。

厄介な問題の答えを探さなければならなくなるのである。





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