こっちの世界ゾ〜ン第二十八夜「部室の一升瓶」

楯野恒雪さん


私は、異性のいない閉鎖的環境の中で、人間というものがいかに堕落できるものかという

現実をいくつも目の当たりにしました。特に男子高に通っていた悪夢の3年間において……。

これは聞くもおぞましい物語のほんの一例に過ぎません。もちろん実話です……。


丁度、2年生に上がったばかりの頃だったと思います。

私はある格闘技系クラブ(あえて名は秘す)の部室を訪れました。

何の用で行ったのかは憶えていません。

道場と一緒になった部室で、私はそのクラブ所属の友人を待っていました。

滅多に入らない体育会系の部室には、鉄アレイやバーベルなどの器具がたくさんありました。

手持ちぶさただった私は勝手にそれらをいじくり回して遊んでいました。

すると、私の目に、机の上にポツンと1本だけ乗った一升瓶が目に入りました。


「なんだろう?」


私はやめときゃいいのに、近寄ってしげしげと瓶を眺め回しました。

やや緑がかった瓶の中には、3分の2ほど、白っぽい液体が入っています。

その時、友人が部室に戻って来ました。

私が瓶を眺めているのを見ると彼は瓶を取って、「飲む?」と私に訊きました。


楯野「何コレ? 酒?」

友人「いや、もっとヤバイもの。バレたらウチ廃部にされちゃうかもしんない」

楯野「まさか……ヤクとか?」

友人「んにゃ、カルピス」

楯野「カルピスも持ち込みダメなんだっけ?」

(私の高校は缶ジュース持ち込み禁止の校則があった)

友人「コイツにゃ、ウチの部ができてから25年間の歴史が詰まってるんだ」

(と言いつつ瓶を振る)

楯野「………………それって、まさか……」

友人「ああ、25年間の部員全員分。お前もやる?」


私は丁重にお断りしました。


あれから10年余り……。

初夏になると、あの瓶のことを思いだしてしまいます。

あの一升瓶はそろそろ一杯になった頃だろうか……?





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