あっち世界ゾ〜ン・第弐参「不幸に愛された男・前編」

いたこ28号談


深夜の2時。

大学時代から友人「あずまたから」(ハンドルネーム)から電話がかかってきた。

彼は不幸に愛された男である。

「あずまが歩けば不幸にあたる。」 街を歩けば不幸が言い寄ってくる。

そんな彼からの真夜中のコールが有る時は必ず不幸が起こった時だ。

今回も予想どうりと言おうか習慣どうりと言おうか・・・

やはり不幸体験自慢告白電話だった。


私「・・・またぶつけられたのかよ?」

いまから数週間前、彼は車で信号待ちをしていたら、後にバイクが突っ込んできたのだ。

幸いバイクの男には怪我はなかった。

それから数日後、今度は駐車中で車に追突されていた。


あずま「なんでわかってん。」

私「・・・ほんまに事故ったんか?」

二度あることは三度ある。

コトワザどうりに進むなんて、なんて素敵な人生なんだ。


私「また止まってるところにか?」

あずま「・・・高速で右折しようと止まっていたら。思い切りぶつけやがった。」

私「大丈夫か?」

あずま「救急車で運ばれてなぁ・・・いま病院から帰ってきた。」

私「まさかおまえ・・ゾンビと違うやろうな。」

あずま「そうか俺はゾンビやったんか、どうりで足が臭いとおもた。

・・・アホ、そんなわけないやろう。」

関西人は自然に「ボケ」れるのである。


私「・・しかし、運転がおかしいんとちゃうか?」

あずま「三回とも止まっててんぞ。」

私「変な止まりかたしてるとか。」

あずま「警察もお前は悪くないと言うてくれたわ。」

私「・・・三回もぶつけられるということは・・・神様がはよ死ねと言うてるんやで。」

あずま「なるほど!謎がとけたわ。・・・なわけ無いやろうアホ!」

とりあえずボケル悲しい関西人の性。


私「ところで最初の事故のあのバイク兄ちゃん、金払いよったんか?」

あずま「昨日も居留守使いやがった。」

私「たかが5万やろ。」

この後も、バイク兄ちゃんは居留守を使いまくり、家族ぐるみで白をきり、

たかだが修理費五万円のために、あずまに訴えられ差し押さえをくらうのである。

・・・し、か、し、「あずま」はそのための費用に10万以上使うことになる。

さすが不幸に愛された男。

で・・・

話は戻って。


私「修理費もらう前にまた事故かよ。」

あずま「今度は車がグシャグシャや。」

私「ラッキーやのお。もう直す必要ないやんけ。とくしたな。」

あずま「ほんまや!」

笑うあずま。

あずま「・・・お前ひとの不幸で喜んでるやろ。」

私「人の不幸は蜜の味。」

あずま「そうか、おれは蜜か。お前の蜜壷か・・・やさしくなめてね。」

死ぬまでボケル関西人。


私「・・・やっぱり祟られてるで・・・・あの婆さんに」

あずま「婆さん?」

私「俺には見える。お前の背中に血まみれの婆さんが。」

あずま「やっぱりそうか!モモヒキはきたくなるわけや。」

ボケる。


私「・・・あの落ち武者の祟りとちゃうか。」

第十六夜・・「うしろの気配」参照


あずま「あああああ〜!!その話題はだすな。また思い出してしまう。」


けして落ち武者の恐怖を思い出すから嫌なのではない。

彼がウケ(?)をねらって見合の席でその話をし、大ヒンシュクをかったのだ。

ついでに趣味と聞かれたら・・・

「毎晩豆腐に嫌いな奴の名前を呟きながら針を指す事・・・・・」

と答えてますますヒンシュク。

会話を読む限りでは、わからないと思うが彼は暗い男だ。

風貌とか声とか・・とにかく暗さが漂っている。

性格は暗くないのだが・・・。

しかしネグラパワーがなぜか身体から

新装開店在庫処分市のように大放出されているのだ。

有名人(?)にたとえるなら・・・知らない人は知らないが・・・


「ミスターおくれ」


その暗いパワー全開の「あずま」が

そんな事を言うから冗談には聞こえなかったらしい。

見合いの結果は・・・・彼の名誉のために書くまい。


私「・・お祓いしたのか?」

あずま「あれは子供の頃の話やし・・・幻やあれは。」


彼はオカルトの類を一切信じない男だ。

不幸体験の積み重ねから、「神も仏」もいない事に気付き、

それに関る「霊」などの存在も否定するようになったのだと思う。


私「新興宗教紹介したろか。」

あずま「いらんわアホ。俺が新興宗教嫌いはしってるやろ。」


彼が心霊現象やオカルトを信じる人間なら完全に新興宗教にはまっていただろう。

彼ほど「祟り」や「先祖の因縁」説に結び付けやすい人間はいない。

ついでに見た目が暗い。

勧誘者達にとってネギを背負ったカモ。

だから彼はあらゆる新興宗教の勧誘をうけまくっている。

有名な某新興宗教団体の女の餌につられ

危うく「拉致」されそうになり、泣きながら逃げ帰って来た事もあるのでる。

某宗教団体では洗脳ビデオを永遠と見せられた事も。

その時の話が結構笑えるのだが、またいつか「こっちの世界ぞ〜ん」で。


私「冗談はともかくとして・・・やっぱりおかしいぞ。」

あずま「・・・じつわな・・・気になる事があるんや。」

彼の声のトーンが変わった。

彼はまじめな話になると声のトーンが必ず変わる。


あずま「変な夢見てな。・・・あれは夢やなぁ。」

あずまは自分自身に言い聞かせるように呟いた。

その一言で私の恐怖体験談収集マニアの血が燃えた。

いつもの笑える恐怖体験談で笑かしてくれるのかと期待したのだが。

彼は血も凍る恐怖の体験をしていたのだった。

「あっちの世界ぞ〜ん」体験を・・・・。


                            ・・・・・・・つづく





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