あっち世界ゾ〜ン・第弐七「あづまのショック」

いたこ28号談




そろそろ来るなぁ〜・・・・と思っていたら、やっぱり「あづまたから」から電話がかかってきた。

「・・・俺、こないだ凄いショックうけてなぁ〜」

彼はブラックパワーを吐き出す男である。

彼と初対面であった88l(当社費)の人間は「暗い」と必ず彼の第一印象を語る。

もっとも、第二印象でも暗いけど・・・・


あの壱億数千万円の借金の事か?


彼の家は呉服屋である。

数ヶ月前、手形詐欺にあい、なんとか裁判で店を取られることは無くなったのだが

壱億数千万円の借金だけが残ったのだ。

さすが不幸の大物。


「あれなぁ、大阪の土地が売れて・・なんとか三千万円になった。」


よかった。よかった。減ったのか・・・でもちょっとガッカリ。

「壱億数千万円の借金を背負う不幸キング・あづまたからぁぁぁぁ!の入場です!」

と、いつか「あっちオフ」で紹介したかったのに。

これでちょっとだけ不幸パワーが下がったか・・・本人にとっては好い事だけど。


じゃ、またふられたのか?


「その事ではなく。」

・・・・その事・・・・でも、やっぱりふられたのね・・・


シナリオがまた落ちたのか?


彼はシナリオライターを目指している。

彼の作品はハッキリ言って面白い。

面白いんだけど・・・・暗い。

主人公が暗くて不幸な人的キャラばかりなのだ。

ついでに自分の不幸をギャグネタにしてたりして・・・

素晴らしい関西人なのか、はたまたMか?

「その事ではなく。」

その事ではなくて・・・・・でも、落ちたのね。


「あの、爺が・・」


あの爺・・・・

やった〜!!!また奴がでたのかぁぁぁ!

あづまは、「白髪の爺」にとりつかれているようなのだ。

しかし彼は霊的現象を全く信じない。

だからお祓いにも行かない。

私たちは彼のことを不幸を呼ぶ大月教授と呼んでいるのだが・・

「・・・また夢の中でな。」

彼は金縛りも、たとえ半透明の人間が目の前に現れても、

足を捕まれても、全て夢なのだと解決してしまう。

う〜む・・・ある意味素晴らしい。

また足を引っ張られたのかよ?(あっちの世界ゾーン第弐参夜参考

しかし彼の答えは、その時よりもショックをうける体験をしたと答えた。

あれよりも「ショック」をうけた・・・あれより恐ろしい体験をしたのか?

す、すばらしい!おおおおお!でりしゃすぅ!!!

わくわくぞくぞくしてきたぞ、人の不幸は蜜の味。

これでやっと新作が書ける!神様素晴らしい友人を与えてくれてありがとう。

で、あづまは、いつもよりもなお暗い声で・・・・・ブツブツと恐怖体験を語りだした。



その日は、少し蒸し暑い夜だった。

彼は金縛りになって目がさめた。

あああ〜、手が動かない、足が動かない、声が出ない。

暗闇なかに何かが・・・それは、白髪の髪を逆立てた爺。

彼の足元で浮いていた。

爺は正座をした格好で浮いていた。

声にならない悲鳴を上げて、あづまはもがいた。

悪夢よ立ち去れ!早く目をさませ!彼は心の中で何度も叫んだ。

白髪を逆立てたしわくちゃの爺は、

そんな事にお構いなく彼の太股の上に「ドサット!」と正座したまま落ちてきた。

重みはなかった。

爺はゆっくりと彼の顔をのぞき込み、じ〜っと見つめながら、なにか呟いた。

「・・・・・・・・」

あずまには聞き取れなかった。

と、言うより、ただ干乾びた唇を動かしているだけなのかも知れない。

彼は恐怖から目をつぶった、・・・・つぶろうとしたが・・・つぶれなかった。

大きく見開いた目玉を自分の意志で閉じる事ができなかった。

爺は掛け布団をゆっくりとめくり、両手の平をあずまのお腹の上に置いた。

そして、あずまのシャツをめくりあげ・・・・・

爺の両腕が、ググググググ・・と、グググググ・・・と、お腹の中にめり込んでいった。

恐怖。恐怖。恐怖。

両腕の手首当たりまでが、あずまのお腹に食い込んでいた。

不思議な事に痛くはなかった。・・・感触もなかった。

爺はあずまの顔を覗きこみながら、ゆっくりとゆっくりと食い込んだ両腕を動かしだした。

まるで内蔵をこねくり回しているように。


爺の乾いた声が、生暖かい息と共に耳の中に入ってきた。

「・・・・・い、た、い、だ、ろ?い、た、い、だ、ろ?い、た、い、だ、ろ?」

と何度も、何度も、何度も。

やめてくれ〜!彼は心のなかで叫んだ。

爺は彼の顔を覗きこみながら、

「 い た い だ ろ?」

爺の両腕は相変らず彼のお腹の中に食い込んでいる。

痛くはなかったが、恐怖で気絶しそうになってきた。

彼の反応に怒りを覚えたのか?白髪を逆立てた爺の表情が鬼のように変貌した。

彼は心の中で再び叫んだ。

痛くない!痛くない!でもやめてくれぇぇぇぇ!

爺はその言葉に反するかのように、両腕でますます内臓をこねくりまわした。

そして何度も

「・・・いたいだろ?・・・いたいだろ?」

彼は心の中で悲鳴に近い叫び声をあげた。

「やめろ〜!!痛くないて言ってるだろ!!」

老人はめり込んだ両腕をゆっくりとあずまの腹から抜き、

しわしわの顔を彼の耳元にちかづけ・・・ゆっくりと・・・・呟く様に


「い、た、い、だ、ろ・・・おまえ。」


彼は言葉の意味が理解できた。

彼の周りに、いや、正しく言えば彼の頭の中で菊の花に囲まれた自分の映像が見えた。

それは彼が木の箱に入っている映像だった。

棺桶に入っている自分。

・・・・イ・タ・イ・・・つまり、遺体になっている自分。

悲鳴!

金縛りが解けると同時にベットから転げ落ちた。



「・・・・物凄いショックをうけたよ。」


あずまは電話の向こうから、嗄れた声で呟いた。


恐い、恐すぎる。

たしかにそりゃショックをうけるわなぁ。

お祓いに行ったほうがいいぞ、あづまたから!

しかし、私が思っていた事とは違う答えが彼から帰ってきた。


「・・・俺の書くシナリオよりも、オチが面白すぎてショックをうけたんや。」


そ、そうなんですか・・・・

そんな事よりも、結構ヤバいとおもうんですが・・・。


と、とにかく、頑張って生きてくれ「あづまたから」

今の俺にはそれしか言えんわ・・・・・・。






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