ついさっき、夜の10時頃のこと。
私は近所のコンビニへ買い物に出かけました。


レジを済ませ、店を出たところで、
乳母車を押しながら歩いてくる、ひとりの女性を目にしました。
ふと、何の気なしに乳母車に乗った赤ん坊に目をやると……

   顔がない

 一瞬、ぎょっとしつつも、まあ夜道のことだし、目の錯覚だろう。
コンビニの入り口に立ち止まり、
左右を確認するふりをしつつ、再び赤ん坊の顔を見る。

   やっぱし、顔がない

 赤ん坊の顔があるべきところには、肌色の丸い塊みたいなのがあるだけ。
まるでのっぺらぼうのようです。
 「うわ、ミレニアムの最後の最後にコレかぁ~~っ!」
などと思いつつ、目が離せなくなってる私。
 すると、驚いたことに女性は私のすぐ手前で止まり、
私に声をかけてきました。
 「あの……この子の顔になにか……?」
 「え? あ、かわいい赤ちゃんですね」と、
当たり障りのなさそうな答えを返してしまう私。
 そこで改めて見直すと、赤ん坊にはちゃんと顔がある……
わりと彫りの深い、大きな口が印象的な赤ん坊……。
やっぱし目の錯覚だったか?
 「うちにも、これくらいの姪っ子がいるんですよ」(半分嘘)
とか言い訳してみると、
 「あ、それで……すみません、
私ったら……ありがとうございます」
 女性は何か悪いことでもしたみたいに、頭を何度も下げ、
足早に立ち去って行きました。

 そして、コンビニ前で信号待ちをしながら、今の会話を反芻してみる。
 『この子の顔になにか……?』
 やっぱ、目の錯覚じゃなかったかもしんない。