駅には色んな業者さんが出入りしています。キヨスクのお姉さん、券売機や改札機のメンテナンス等々。中でも、職員に一番関係が深いのは駅構内をきれいにしてくれる「清掃」の業者さんです・・・。


駅の事務室には色んな場所を映し出すモニターが置いてあります。

ある夜、当直の職員が改札口の監視モニターを見ると、改札機を拭き掃除しているおばちゃんの姿が映っていました。(私の勤務してた駅は全て自動改札となっていて、監視カメラが設置されています)事務所から肉眼で改札口は見えるのですが、おばちゃんのいる場所は死角になっていました。

その職員は時間も遅いし変だなと思い、清掃員詰め所の鍵の保管場所を確認すると鍵はあります。(清掃の最後の人が帰るとき必ず鍵を置くことになっていました。)そこで、もう一度モニターを見ると、さっきから場所は移動していたもののまだ改札機を拭いているおばちゃんの姿があります。

しかし何か変だ、彼はそう思いました。それは何なのか・・・。

おばちゃんが拭いている改札機・・・、その改札機は・・・。事務所から見えている改札機なのですが、そこには誰も居ません・・・。あわててモニターを確認すると、やっぱりおばちゃんは拭き掃除しています。彼は混乱しながらも、もしかしたら何かの原因で監視カメラの角度が変わってしまったのかと思いました。そこで事務室を出て改札口へ向かいました。

やっぱり誰も居ません。

事務室に戻って恐る恐るモニターを見ると、もう誰も写っていませんでした。彼は後で、その駅を担当していたおばちゃんが、亡くなっていたという話を聞きました・・・・。そのおばちゃんはそれからも何度か目撃されています。幸いにというか不幸にしてというか、私はそのおばちゃんの姿を見たことがありません。

でもその駅でこんな経験をしました・・・。

当直明けの時、泊まりの相方が出入口のシャッターを開けに行きました。(小さな駅は2人で泊まっています)私はその時監視卓の前に座り服装を整えていたのですが、突然改札機が「ピンポン・・・ピンポン・・・」と鳴り出しました。見ると、一台の改札機の扉が閉まっています。(私の勤務先の改札機は、普段扉が開いていて何かトラブルがあると閉まるようになっています。)

トラブルの原因はモニター横のディスプレイに表示されるようになっていて、そこには青い字で「人検知異常」と表示されていました。

改札機には赤外線のセンサーがついていて、切符を入れずに通り抜けようとすると「ピンポン」と音がして、同時に扉が閉まる仕組みになっています。その時ディスプレイには緑色の字で「無札」という表示が出るのですが、センサーが検知したまま一定の時間が過ぎると、次に「人検知異常」という青い字が出るようになっています。

駅構内は結構汚いところで何度掃除してもすぐ埃だらけになってしまいます。そしてその埃がセンサーをさえぎり、勝手に扉が閉まり「無札」という表示が出ることは度々あるので、いきなり青い字が出るのは変だなと思いながらも、あまり気にせず身支度が終わったら見に行こうと思っていました。(普通、ディスプレイ上の緑の字は軽いトラブルで、青い字は現場で原因を取り除いた上リセットしなければならない重めのトラブルを表します。)

さて、服装を整え「ピンポンピンポン」と鳴っている改札機へ向かおうとした次の瞬間、勝手に鳴りやみ正常に戻ってしまいました。もちろんその時お客さんを含め回りには誰も居ず、一応改札機を見に行きましたが別に異常はありません。

後でよく考えると、その改札機は肉眼では見えないおばちゃんが、モニターの中だけで一生懸命拭き掃除していた、その機械でした・・・。

その駅では他にも、真夜中に事務室のドアを「ドンドンドン・・・」と叩かれて、仮眠中の職員があわてて出てみると誰も居ない、ということが何度かありました。しかもドアを叩く音は泊まっていた2人とも聞いています。

夜中の誰も居ない駅はほんとに怖いです。私は若い頃心霊スポットと呼ばれるところへ随分行きましたが、そのどこよりも職場の方が怖かったので、逆にわざわざ出かけて行かなくなったほどです。