僕が小学校に上がったころの話です。
うちの親戚で90何歳になると言うお婆ちゃんが一人暮らしをしていると言うので、うちで引き取って一緒にすむ事にしたのです。
 夕飯の時婆ちゃんを呼びに行くのが僕の役目でした。ある日婆ちゃんを呼びに行くと、カセットコンロで変な物(ピンク色の液体。臭かった。)を煮ながら、こう言いました。『いつか虹色に輝く銀色のレコードをかってあげます。』
僕は婆ちゃんの雰囲気がおかしいのと、においにたえきれなくて「ばあちゃん、めしだよっ」と逃げてしまいました。
 婆ちゃんは食卓がある部屋にくるまで、『スウッチェ、スウッチェ』と独特のつばの吸い込み音を出しながら歩いて来ます。僕はその音が、なんだかイヤだなあ、と思っていました。
 そんなある日、婆ちゃんは僕の父親の腕を「食べようと」して暴れ、そのまま倒れ入院してしまい、そのまま亡くなってしまいました。
 婆ちゃんが死んで一ヶ月もしたころ、夜中眼をさました僕の耳に、あのおとが聞こえて来ました。「スウッチェ、スウッチェ。」だんだん僕の部屋に近付いて来ます。僕はがたがた震え、その音がとまった、ドアのあたりを睨んだまま、ジッとしていました。そしていつの間にか寝てしまいました。
 この事があった、同じ日、僕のじいちゃんのところにも、そのお婆ちゃんは訪れたそうです。じいちゃんの話だと、身長が3メートルくらいになって出て来たらしく、天井につかえる首を曲げて、ジッとじいちゃんを見下ろしていたそうです。
 数年後、ある製品が発売されました。『銀色に輝く虹色のレコード』
そう、CDのことです。婆ちゃんはテレビも見なかったし、1日寝ている事が多かったし僕でさえ数年後にCDという物がでるなんて事は知りませんでした。ただ、婆ちゃんはそれを『買ってあげます』と言っていた・・・。しばらくびくびくしてすごしていました。