昔すんでた所はぼろアパ-トが密集しているすげ~○乏臭いところで
路上はアパ-トの住人の自転車がびっしり並んでいて車は離合できないほど
だった。ある夜、その道路に怪鳥のような笑い声が響きわたった。窓から外
を見ると若い女がばか笑いをしながら全速力で走ってくる。そして、自転車
の列に激突。数台の自転車をなぎ倒して本人はそのガラクタを飛び越えて頭
からコンクリ-トの下水のふたの上に着地した。

 頭が激突した鈍い音を最後にあたりは静寂につつまれた。いつのまにか隣
のテレビの音も消えている。女はピクリとも動かない。いや女の頭の周囲の
髪が動いている。血が黒々とした血が女の頭から流れ出して周囲のコンクリ
-トを染めているのだ。死んだか?数分が過ぎた。私は女は好きだが警察と
死体は嫌いなのでシカトすることにした。アパ-トの玄関の前で勝手に死な
れた向かいの住人の一人が恐る恐る出てきた。若い男だった。俯せの女の脇
に屈むと何事か声をかけた。

 女が動いた。そして上半身を起こすと男に顔を向けた。私の家の窓の位置
からは女の背中と髪しかみえない。だが、男の顔は見えた。

 恐怖が張り付いた顔。男はアパ-トの玄関に尻餅をつくとそのまま手足を
ばたつかせて通路の奥に這いずっていった。

 女が立ち上がった。黒いス-ツにパンプスだった。そして、女は走り去っ
た。警察に関わる心配がなくなったので私は外にでた。道路には300cc
くらいはありそうな血だまりができていた。向かいのアパ-トの通路の暗が
りに震える男の足が見えた。私がそばに行くとすがりつこうとした。一歩退
がってそれを避け男に聞いた。「どうしました?」男の顔は薄暗い街灯の明
かりでもはっきりわかるほど脂汗で光っていた。私はどこかで、「スゲ-、
ブスだった。」というようなくだらないオチを考えていたが男の顔は私の期
待とは裏腹に真剣そのものだった。男は目をむき出してどもりながらやっと
言った。「人間じゃなかった。」フンと私は鼻で笑って自分の家に帰るとク
レオソ-トを1リットル持って戻ると周囲の血を全て洗い流した。一部始終
を男は怪訝そうに見ていた。そして、男の側に戻ると屈んで顔を近づけた。
強烈なアルコ-ルの臭いがした。

 「今日見たことは忘れろ。」と耳元で囁くと男は失禁した。

 翌日、私は気分よく新居に引っ越した。からかって悪かったね。君がみた
のはやっぱりただの酔っぱらいの血塗れのブスだよ。だろ?それとも・・・